「テントウムシのチャコちゃん」
あるひ、テントウムシのチャコちゃんが、仲間と一緒にピクニックへ行ったときのこと。とおくに見える山のはじっこが、だんだんオレンジ
色にそまってくるのにぽうっとみとれていたら、気がつくと仲間がいなくなっていて、首をかしげながら、帰り道をひとりブンブン飛んでいた
のです。「みんな、だまって帰ってしまうなんて。どうして声をかけてくれなかったのかしら。ぷんぷん」――ですから、背の高いケヤキ並木
の下に、アジサイ並木がさらに続いている森の一本道を、おおぜいの仲間たちがいっせいに飛んでいるのをみると、うれしくなって、駆けよ
ったのも、無理のないことでした。チャコちゃんがみつけたみんなというのは、ほかでもありません、テントウムシの模様がプリントされたワ
ンピースであり、みんながいっせいに飛んでいると見えたものは、そのワンピースを着た女の子が、とうさんの手に引かれて楽しげにぴょんぴ
ょん飛び跳ねていたために、ふわりふわりと裾がゆれうごいていただけのことであったのですが。
大急ぎでみんなに追いついたと思って、ホッとしているチャコちゃんが、そんなことに気づくはずもありません。
気がつくとチャコちゃんは、プリントされた仲間たちと一緒に、白いコンクリートのビルディングの中に入って、カレーライスを囲む食卓の
一員となっていたのでした。
「今夜のごはんは、いつもとちがうにおいがするわ」
チャコちゃんは思いました。(それにしても、今夜はみんな、ずいぶん静かじゃないの。いつもおしゃべりな兄さんや、悪戯ばかりしている
小さな妹たちも、きょうに限って、なんてみんなお行儀がいいのでしょう)
さて、いったいチャコちゃんは、いつになったら、自分のいる場所がいつもと違うことに気づくのでしょう。それとも、ワンピースのおうちは
そんなにも居心地がよかったのでしょうか。あるいは、チャコちゃんが気づくよりも先に、ワンピースの主がチャコちゃんをみつけることになるの
でしょうか……。今のところ何もわからず、私たちはただ黙って見守るほかなさそうです。
夕日にみとれていたために、夕ごはんを別のところで食べることになった、おっとりもののテントウムシのおはなしでした。