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第二十二話:『スマッフィーのトランク』

 いつぞやプッピンの手から生まれてきたネズミのぬいぐるみ「スマッフィー」は とある女の子にもらわれて、その女の子が旅に出た先のバグダッドで 一人置き去りにされてしまったことは、前回スマッフィーから聞いたとおりです。
 で、いったいどこまでがほんとうの話でどこからがこのヒョウキンな洒落者の つくりばなしなのか、ポッペンとプッピンは煙に巻かれながらも いつしかスマッフィーは二人の友だちになっていたのでした。
 いったい、この足長の友人は手品がたいそう好きで、先ごろも プッピンが焼いたビスケットのひとつをポーンと天にほうりなげたかと思うと
「あっ、空にくっついてしまった!」と驚いたように首を仰ぐので ポッペンとプッピンの首も同じような角度で仰がれていると 自分のポケットからどうしたのかシナモンの香りがぷんぷんするビス ケットをつまみだして口にほうりこんでいたり、そうかと思えば、 また「あっ、今度こそ星になっちゃった!」と大袈裟に言うので、 二人してスマッフィーのポケットの中を調べていると、そこにカケラはなく、
「ほらごらん!」という声に上を見ると、ギザギザの断面をもつビスケットの かけらのような見知らぬ星が、――まだインク色の闇が充分に 色づかないうちだというのに――西の空にとくいげにまたたいている、 という具合なのです。
 このような一部始終の種はいったいどこから来ているのでしょう? 
「バグダッドの露店商人より教わった」という返答自体が、 なんだか手品のようではありませんか?

 このスマッフィーが、夜になると急にそわそわしはじめて言うのでした。
「あの――じつはお願いがあるのです。トランクをひとつ、貸して いただきたいのです。ぼくじつは、ずっと夜になるとその中で 眠っていたものですから。本だとか、ブラシだとか、女の子の 旅の品々にまぎれてね。ああ、もちろん一人になってからは、 靴箱とか、ゴミ箱とか、なるべく狭いところで眠っていたのですけど」
 この言葉はポッペンとプッピンをして、夜更けにもかかわらず、 トランク制作という大仕事にとりかからせるに充分な働きをもっていました。
 まず芯にするための大変硬いボール紙と、のりが取り出されました。
それからクロス張りにするための丈夫な麻布。色は、スマッフィーの 希望を取り入れて濃紺にしました。
「黒の真っ暗では眠られない。といって、白ではまぶしすぎる」というのが その理由です。そして、女の子が持っていたいつかのトランクには、 蓋裏部分にひだひだのついたゴム入りの内袋がついていて、 パジャマはその中に入っていた――というスマッフィーの綿密な 証言が重なるにつれて、ポッペンとプッピンはもう、自分たちが眠ることなど どうでもよくなって、しだいに明るんでくる窓の光を頬に感じながらも 懸命に針と糸を動かしつづけたのです。
 ところが何としたことでしょう、ようやくトランクも完成して、 パジャマにも着替えて、うれしそうに中に入ったスマッフィーをみて、 ポッペンとプッピンも倒れこむようにして寝台の中に入った。ところが 起きてみてトランクをあけると、いない! 
たしかに入ったはずのスマッフィーがいない。二人が慌てていると、 二人の寝台の中からポーンとスマッフィーその人が飛び出してきた ――いったい、こんな手品が何度 繰り返されたことでしょう。
「女の子が、お嫁にいくときにあなたを置いていったわけが、 なんとなくわかってきた」ポッペンのそんなつぶやきさえも、 一瞬後にはかき消されてしまうほど楽しい智恵の持ち主、 そうスマッフィーは大手品師だったのです!

(おしまい)

 
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