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第三十四話:最終話『夜空の下のクリスマス』

「ぴりぴりするね…」
「つやつやしているよ、空気が」
「氷の町みたい」
「ほんとだ、星の都みたい」
「ペガススも見えるよ」
 白い息と一緒に出てくることばさえも、その瞬間にカチンとこおりついて しまいそうなほどの夜――。ポッペンとプッピンたちは小高い丘のてっぺんに 立つモミの木のまわりに集まって、一晩だけのクリスマス会を花火のように 盛大に打ちあげようというのです。
 すでにプッピンお得意のシナモンやグローブのたっぷり入ったクッキーが モミの木のそこかしこに吊るされて、香ばしい匂いをぷんぷん放っていますし、 干しぶどうとクルミ入りのパンからは、ラム酒の匂いもほんのり甘く漂って います。赤やグリーンや、金いろ、銀いろのぴかぴか光るガラス玉はスマッフィー が手品のように集めて、またたくまに華麗に飾りつけてくれたもの。魔女子さん お手製のぶかっこうなろうそくが全部で七本、火をつけると炎が大きくなったり 小さくなったり、細く揺れたりしながら、ちろちろと燃えつづけ、みなの顔を 明るく照らしだしています。ポッペンとツィギーはというと、ボール紙でつくった お星さまをいくつもいくつも、木に飾ったんですよ。
 魔法壜からハチミツ入の熱い紅茶が配られました。
「この木がどこまでも伸びていったら、そして雲の上の方までも伸びていって、 雲の上でもクリスマスパーティーをしてたら、そこではどんな飾りつけが 行われるのだろう」こんなツィギーの台詞も、今夜は笑いで消されることなく リン!とひびきわたるようです。
「うん。あたしもさっきから考えてたんだ。あたしたちと同じことをしている 人たちが、たくさんいるんだろうなって」
 ポッペンの空想はしかし、小高い丘から見える周囲の家々の、さびしい ようなべっこう色の明かりとつながっていたもののようです。ぴりりと透きとおる ほどつめたい空気の中で、窓窓の明かりは、まるで天上にざわめく星々と どこかつながっているように思われたものですから。
「さて、ハチミツティーのおかわりはいかが? クッキーもお好きにとって ください」プッピンの声を待っていたかのように、めいめい木からごちそうを 大事そうに手にとりました。
「ぼくのがないよう」空の方ばかり見ていて、一等最後に手を伸ばそうとした ツィギーが声をあげています。
「そんなことないでしょ。ちゃんと人数分、それにツィギーの袋にはヒコーキの マークが書いてあったでしょ」とプッピン。
「だって、ほんとにないんだもん」ツィギーは木のまわりをぐるぐる回って <ツィギー>と書かれた包み紙をけんめいに探そうとしますが、やっぱり どこにもないようです。
「じゃあ、みんなで四分の一ずつ、ツィギーにあげよう。そしたら一個に なるよ。でもおかしいね」
 皆からカケラをもらったツィギーは「ぼくはやっぱり、ツギハギだから お菓子もつぎはぎなんだねえ」などとつぶやいています。
「いったい、カラスにとられてしまったのかな?」ポッペンはなにげなく そう言って、ハッとしました。なぜってモミの木のてっぺん、高すぎて誰も 飾りつけもできなかった頂上に、見たこともない星のオーナメントがひとつ、 キラッキラッ、大きくなったり小さくなったりしながら、とてつもなく明るく かがやいているではありませんか。
「フフフフ…」「アハッハッハッ…」どこかで笑い声がきこえてきました。
 ハハハハハハ! クックックックッ……いつのまにかボール紙製の星が、 どれもこれもきれいにすりかえられていました。小高い丘のてっぺんの空も、 地上の屋根の下も、どこもかしこも星だらけです。
 笑い声はどんどん大きくなっていきます。
 その中にはもちろん、ポッペンやプッピンや魔女子さんやツィギーや スマッフィーの声もまざっていたということです。

(完)

 
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