輸入手芸材料店【プチコパン】にようこそ!ボタン、アップリケ、ハンガリー刺繍の材料などいろんな国から直輸入の手芸用品をお届けします。

 

第二話:『ポッペンとプッピンと星の子とパスタ』

 一日が終わって、ポッペンとプッピンは夕げの支度をしています。今夜のメニューはパスタです。 いつものとおり、パスタをゆでるのはポッペン。パスタの具を用意するのは、プッピン。パスタが ゆであがるまでには、あと12分。ポッペンはそのあいだ、窓をあけて空を眺めていたのです。 ガラス戸をあけると、パスタをゆでる匂いにまざって、かすかにプラムの木の花の匂い。 真っ黒なインク色の空には、ハチミツ色の三日月がぶらりん、まるで糸で不安定に釣り下げられて いるかのように変な角度に傾いていて、そのまわりにはガラスビーズのような細かな星が、 黒ビロードのような夜空いっぱいに縫いつけられているのでした。
 そろそろお台所に戻ろうとポッペンが思ったそのとき、ビーズのような星々のあいだをすべるように して、ひとつぶの星がすごい勢いで急降下してくるのが見えたのです。そう、それはなんといったら いいか、ちょうど下り坂でブレーキのきかなくなった自転車がすごい勢いで降りてくるのとおんなじで、 つまりは、ポッペンが呆気にとられて見ているうちに、「ガシャン!」お月さまに衝突してしまったのでした。
「おやおやおやおや!!」「これはこれはこれは」ポッペンは大慌てで台所に駆け込みました。
「プッピン、たいへん!すごいものみちゃった!」 「お星さまがお月さんに衝突したよ!」
「おや、そうですか」プッピンはお鍋の中をかきまぜながら、のんびり言うのです。
「パスタもどうやら、とっくにゆであがっていますよ」
 ポッペンが慌てて中をのぞくと、熱湯の中でぐるぐるダンスをしているのは緑のアスパラガスで、 パスタの方はもうとっくにザルにあげられているのでした。
「それで、どうなったの?」アスパラガスを注意深くかきまぜながら、プッピンはいいます。
「どうなったって?」
「星がぶつかって、そのあと」プッピンにそういわれ、ポッペンは必死で考えようとしましたが、 不思議なことに何も思い出すことができないのでした。
「星がぶつかったあと、パスタがゆであがって、それからどうしたろう」
 そのときでした、ピンポ―ン、と玄関のベルが鳴ったのは。

ドアをあけると、みたことのない子供が立っていました。
「こんばんは。ちょっとお願いしたいのです」その子はポッペンの方を見ていいました。
「あなたは ごぞんじのことと思いますがさっきおつきさまに衝突してしまって、おつきさまが こんなになってしまったんです」
サッとその子が左手をさしだすと、袋の中にこなごなになった黄金色のべっこう飴のような かけらがたくさん入っているのが見えました。びっくりしてポッペンとプッピンが窓のところに かけよると、なるほどほんとうにさっきまでしっとりとかがやいていたおつきさまの姿が そっくり消えているではありませんか。
「でも、おかしいな。どうしてわたしが見ていたと知っているんです」ポッペンが不審に思って たずねますと「それは、あの事件の一部始終を見ていたのは、世界中でただひとりあなたしか いなかったからです」と、星の子供は澄ましていうのでした。「だから、どうかおつきさまを 元通りにするのを手伝ってほしいのです」
その子の言うことには一理あるようでしたが、よく考えるとだんだんわからなくなってくるようでも ありました。ポッペンと星の子が十秒間ほど互いの顔をみつめあっていると
「みなさん。そんなことよりもパスタがお待ちかねです。おつきさまとパスタとどっちが先決か、 どうでしょうね」プッピンがお鍋をもってたたみかけるように言いました。
「これは失礼しました。ところでぼくはお腹がとてもすいていまして……」
ポッペンとプッピンのお皿の横に、もう一枚のお皿が出されました。ゆげの立ったアスパラガスと ハムのソースが三等分されましたが、もう誰も意見をいう人はいませんでした。みなとても お腹がすいていたからです。
「いただきます」フォークを器用に使ってパスタをたべる星の子をみて、 (ほんとうはごはんのにおいにつられて来たのではないかしら) チラリとポッペンは思ったものでしたが……。

「おいしかったです。ごちそうさま」
星の子はあっというまにお皿をたいらげるといいました。
「お礼にこれをさしあげますよ」
ポケットからとりだしたのは、不思議な粉の入った袋です。
「これは一種の薬草でしてね。どんなお料理にでも使えますからためしてごらんなさい」
 それから三人は粉々に割れたお月さまをどうすればいいか円陣を組んで相談をはじめました。
「まず破片をならべてみましょう、どこも足りないところがないかどうか」
プッピンの提案で、白い紙の上にベッコウ色の月の破片がならべられました。
といってもそれはパズルほど簡単なことではありません。というのも不思議なことに、 どの破片もみな似たようなかたちをしていたからです。
 根気さでは誰一人横に並ぶもののないプッピンが、それでもようやくパズルを完成しますと、 オヤオヤ真ん中あたりに10円玉くらいの大きさの穴があいているではありませんか。
「どこかに落としてきてしまったのかなあ。おかしいなあ、全部ひろったはずなのに」星の子は しきりにそわそわしています。
「じゃあ先にこっちをやってしまおう」
せっかちなところのあるポッペンがさっそくアロンアルファのボンドをもってきて、バラバラになった お月さまを貼りつけはじめました。
「じゃあぼく、カケラをさがしてきます」
 そういってバタバタとドアから出ていったきり、星の子は戻ってきませんでした
。  ポッペンとプッピンの修復の甲斐があって、お月さまはなんとか元のかたちになりました。 それで、ベランダからボールを投げるようにしてポッペンが力の限りお月さまを上にほうりなげると、 ペタン! とそれは空にうまい具合にくっつきました。
 遠くから見てみると、どこが一ケ所欠けているのか、もうぜんぜんわかりません。 それでも、 満月の夜など二人は思い出したように月をじっとみつめずにはおれないのです、ぶじ最後のひとカケラが みつかったかどうか、それからどこか一ケ所でも糊のはがれたところがないかと心配になって――。
 そうそう、言い忘れましたが、星の子にもらった不思議な香辛料はプッピンが朝のオムレツに入れようと したときはもう、ただの空気になっていたということです。

(おしまい)

 
 おはなしtopにもどる  
 
  プチコパンtopにもどる