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第五話:『ポッペンが旅行中にプッピンがつくった帽子のはなし』

 ポッペンが旅行で留守にしているあいだ、プッピンはというと、帽子をつくるのに とても忙しかったのです。といいますのも、太陽の仕事がこのところいちだんと 活発になっていたからなのですが。
「緑色のすずしげな帽子をつくってくださいな。谷町3丁目の魔女子より」 そんな注文も飛び込みで入ってくるものですからたいへんです、プッピンはおおいそぎで グリーンのあざやかなフェルト地をかきあつめてつくりはじめたのでしたが――
 つば広帽のつば部分を予定よりも広くしすぎてしまったのがそもそもの始まりでした、 少しくらいならわからないだろうと思って、プッピンは、足りなくなった頭のてっぺんの部分に、 ビロオドの手ざわりのする庭苔をほんのわずか、とってきて、たしたのです。ビロオドの肌ざわり のする苔の生地は、大変いいにおいがしたのですが、なんと驚いたことには、苔と一緒に あたりをブンブンととびまわる蜂まで一緒についてきてしまったのです――。

プッピンの作る帽子のはなしのつづきです。
プッピンがいつから帽子をつくるようになったのか、それはプッピンにもわからないことです。 気がついたときには隣町の魔女子さんや山のかなたに住むフクロウ氏、海のこなたに住んで いるらしい不思議な少女などなど、各方面からの注文がひっきりなしになっていたのでした。
「それにしても」とプッピンはつぶやくのです。「フェルトが足りなくなったのはもっけの幸いだった」
 そのフェルトというのは隣町の魔女子さんの急ぎの注文によるつば広帽に用いたフェルトの ことで、頭の部分に足りなかった生地を買いだしに行く手間をはぶくために、プッピンがふと 思いついて庭苔を少しばかり失敬したものです。
「もぎたての胡瓜を切ったときのような、とてもいい匂いのする帽子をありがとうございました。 じつはここいらの魔女達が一斉に集う春のダンスパーティーにかぶっていったのですが、 あたくしの帽子がやはり一等きわだっていました。とりわけ、ダンスをはじめた瞬間に、頭の てっぺんから蜜蜂や蝶々がひらひらと舞いはじめたのには、みなのステップがとどこおりがち になるくらいでしたわ。今でも愛用しています。一日の終わりに霧吹きで水やりをするのが 日課となっています。次回はお花がたくさんちりばめられた帽子(やっぱりつば広がいいですね) を注文させていただきたく。とりいそぎにてお礼にて。お代の代わりに珍しい高山植物からとれた 新鮮な蜂蜜をお送りいたします。ごめんください」
 そんな礼儀正しい手紙が翌日にはもう配達されてきていたのです。
「ふーん。そしてこれがその蜂蜜なんだね」  半透明のレモン色をした蜂蜜をなめながら、ポッペンは感心して言いました。
「そのフェルト帽、あたしもかぶってみたかったな」
 同じものがもう一つつくれたらね、と自信なさそうに言ってパンに蜂蜜をぬるプッピン。

プッピンのあたまの中はもう、次の帽子のことでいっぱいです。

(おしまい)

 
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