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第九話:『熱いお茶の効用』

 プッピンの使い残しの、色とりどりのハギレをポッピンが糊ではりあわせると、まことに 妙ちくりんのクマができあがりました。そこへたまたま通りがかった魔女子さんが「フッ」と 息をふきかけると、クマはひょこりと立ちあがり、一同に向かってピエロのようなお辞儀を ひとつしたのでした。
「まあまあ、とにかく熱いお茶でもみんなでのみましょうよバナナケーキもありますし。」
 あっけにとられて立ちつくしていた一同に、そのときプッピンが実に素敵な提案をとなえました。
 どうしていいかわからないときに、とりあえず熱いお茶をのむ、というのは時に魔法のように 素晴らしい効力を発揮するものです。
 はたして、ダージリンの紅茶の香りと熱い湯気とひときれのバナナケーキ(クリームと シナモンつき)とは一同の心とお腹をすっかりあたためたのでした。
「それで、ツギハギくんは、どうですかね。ケーキのおかわりなど…」
「ツギハギくんなんていやだ。もっと素敵な名前がいいや」
クマにそういわれたポッピンは、うーむと考えこみました。
「では、ツィギーは?」
「うん、それがいい、ツィギーがいい」
 クマはたいそう悦びました。それで、この瞬間から私たちも彼のことをツィギーと呼びたいと思います。
「ええもちろん、おかわりください」
 ツィギーはそういって、お皿をさしだしました。
 おりから咲きはじめたばかりの金木犀の香りがどこからともなく部屋の中に流れこんで きました。
「いいにおい」  みなはひととき、沈黙しました。まるで、おしゃべりをするとにおいが消えてしまうかのように。
「なんだかなつかしいにおいですね」
 しみじみとそう言うツィギーに、なぜ生まれたばかりなのに?と言おうとしてポッピンはハッと その言葉をのみこみました。自分も子供の頃、同じことを思ったことがあったからです。
「ねえツィギー、あなたよかったら、私の助手になってくれない?」
魔女子さんがふと言いました。
「金木犀の香りを壜詰めにするの。今年はきっと、いい香りがたんとできると思うわ」
「ええよろこんで!」ツィギーがつぎはぎの頬を真っ赤にして大喜びしたのは言うまでも ありません。そうと決まるが早いか、魔女子さんはツィギーを連れて風のように去っていきました。
「はやく、雨がふらないうちにいそがなくては!」
「おいしいお茶をごちそうさまでした。壜詰めができましたら真っ先にお届けしますわね」
 のみかけの紅茶とともに、そんな言葉を残して。
「雨がふらないといいね」
「ほんとにね」
 ポッペンとプッピンは話し合いながら、しばし澄んだ花の香りをたのしんでいます。

(おしまい)

 
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