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第十三話:『ポッペンとアヒルさん』

「ああいそがしいいそがしい!」
 ポッペンがせかせか思いながら早足で道を歩いていると、 ドン! と何者かにぶつかりました。
「イタタタ…」みると、相手はアヒルです。
「え、アヒルだって?」ポッペンはしげしげ眺めましたが、 黄色いくちばし、短い足、緑とグレーと黒が混ざりあったような 羽毛の体は、やっぱりどうみてもアヒルなのでした。
「あぶないじゃないですか。こんなアスファルトの道路なんて 歩いてたら」ポッペンがいうと、「だって」とアヒル。
「どっちの道を行こうか、しばし迷ってたんですよ」
 アヒルの前にはなるほど、田んぼへとつづく牧歌的な道と 車がビュンビュン通る幅広の道路のふたつが立ちはだかっています。
「そりゃ、こっちにいけばいいじゃないですか」
むろん牧歌的な道をポッペンが指さすと、
「そう簡単にきめてもらいたくないです」アヒルは毅然とポッペン にいうのでした。「なぜって、ぼくは旅に出ようと思って 家を出てきたんですよ。どっちへ行くかによって、運命が決まる んです。そしてそれは必ずしも、安全な道を行けばいいっていうものでも ないんです」ところで、とアヒルはそこまで言うととつぜんポッペンに 向き直りました。「あなたは、どちらへ?」
 ところがポッペンはそれを思いだすことができませんでした。
 おそらく、アヒルとぶつかったときの衝撃で忘れてしまったのでしょう。 あるいは、覚えているほど価値のある行き先ではなかったのかもしれません。
「うーん。来た道をもどっていけば、思いだすかも知れない」
 そう思ったポッペンは、家に向かうことにしました。
「あなた、よかったらうちでお茶でものんでいきませんか。その間に、 どっちの道にいけばいいか、考えもまとまるかもしれないでしょ」
 アヒルはしばらく考えていましたが、やがてこの提案に同意しました。
 それで、二人は車がびゅんびゅん通る道を、ゆっくりゆっくり帰って いったのです。

(おしまい)

 
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