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第十九話:『ツィギーの旅のつづき』

旅に出るといって、行くあても本当はなかったのです。
 ツィギーは前に魔女子さんに読んでいただいた科学の本の中に、 ただひたすら前を歩いていくと、いつかは元の場所に戻るという記述があった ことを覚えていて、それならば遠方へでかけることもできそうだし、また道に 迷うこともなく、いつかは魔女子さんのところに帰ってくることができる、 と考えて実行に移したわけなのです。
 で、ツィギーがひたすらまっすぐに歩いていますと、長いしっぽがもつれて 困っている猫に会いました。「結び目をほどいてくれたら、いいことをおしえて あげる」と猫はいいました。それでツィギーは意外に難儀しながらも、しっぽの 結び目をほどいてあげました。
「いいことって?」
 ツィギーが聞くと、「この先まっすぐ行くと、三つに道が分かれているところが あるよ。その中できみは、きっと真ん中の道を行くといい」
 それだけ言って猫は影のように走っていってしまいました。
 なるほど、猫のいうとおり、ポプラ並木のはずれまでくると道が三つに分かれて いました。妙な標識が立っています。一番左の道は「過去へつづく道」、それから 「現在へつづく道」、「未来へつづく道」というのです。
 さきほどの猫がツィギーにすすめたのは、真ん中の「現在へつづく道」。
 それで、ツィギーが真ん中をいこうとすると、道ばたの石ころが歌うのでした。
 「この前、おばあさんが左の道をずっと歩いていったよ。おばあさんはどんどん 若返り、ついには子供になって忘れてしまったよ、どうしてこんなところを歩いて いるのかってさ」ラ、ラ、ラン、ラ、ラ、ラン! 
 それでもツィギーが真ん中の道を行こうとすると、こんどはカラスが飛んできまし た。
「きみ、真ん中の道を行こうだなんて、いちばん地味じゃないかね。パーッと、おも しろいものを見たいとは思わないのかね」
 パーッとおもしろいもの…それがツィギーにはどんなものをさすのか、わかりませ ん。
 ツィギーの頭の中は、いつか読んだ科学の本のことでいっぱいです。
 ツィギーは短い両手を大きく振りながら、思いきって真ん中の道を進みます。 現在へとつづく道を…
 そのとき、風がさあっと吹いてきました。
 その風は魔女子さんからの便りをのせた風でした。
「こちらは春の香水づくりも終わってほっとしています。みんな元気だから心配しな いように」
 風はそんなことを伝えて、再びさあっと通りすぎていったのです。


(おしまい)

 
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